大阪高等裁判所 昭和34年(く)17号 決定 1959年8月10日
少年 K(昭一七・一二・二生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年は今では自己の罪を悔い固く改心を決意しており、一面共犯者の他の少年が揃つて釈放されているのに本件少年一人を少年院に送るのは、少年の童心を傷つけ将来のためにも悪影響を及ぼすのみならず、抗告人の家庭は少年の兄Sが肺結核で病院に入院加療中であり、少年の姉T子は先に結婚して三人の子供があつたが二年程前に離婚し子供一人を連れて現在抗告人方に同居しているが、軽度の痴呆症で働くこともできず、少年が○○熔接会社の工員として働き、又少年の兄Kが○○電機会社の工員として働いて、各毎月七千円位宛を家計に入れ生計を助けていたのであるが、今少年が少年院に行くと一家の生活は困窮するから、少年院送致の決定は取り消されたいというのである。
しかし本件記録及び添付の少年調査記録を調査すると、少年は昭和三十三年十月二十四日大阪家庭裁判所において窃盗、暴力行為等処罰に関する法律違反、恐喝、暴行保護事件について保護観察処分を受け、元の勤務先○○熔接工業所に帰つて就労したが、その後も不良交友を続け、同年十二月、翌年一月にはこれらの友人と共に三回にわたり他人の物を窃取し、昭和三十四年三月十八日頃からは右勤務先も無断欠勤し、同月末頃には単独又は友人と共謀で四回の窃盗を重ねるに至つたこと及び少年の家庭は、父は本籍地に一人居住し、少年は母、姉、兄らと共に大阪市○区○○町に居住していたが、姉は精神薄弱者、次兄は胸部疾患で入院加療中で、母も少年や○○電機○○工場の寮に住む少年の長兄Kの収入に依存して生活していた関係もあつて少年に対する保護、補導能力に乏しく、不良交友を断ち少年の勤労意欲を増進させるためには、在宅保護ではもはやその効果を期待することができず、収容保護による規律ある生活と訓練の下に矯正するのが適当であると思われる。なお抗告人は少年の共犯者らはいずれも審判の結果釈放されているというが記録によると、本件における共犯者Aについては昭和三十四年二月二十四日中等少年院送致の決定がなされているのみならず、B、Cの両名は同日保護観察に付せられているが、同人らは犯行回数も二回又は三回で少年とは犯情も相当異なつており、又D、Eらについては家庭裁判所における処分も未済であるが、同人らもその年令、非行歴犯罪の態様等においてそれぞれ少年とは異なる点があるから、少年に対する本件中等少年院送致の決定が特に少年に対して不公平な処遇をしたものであるということはできない。結局原裁判所が少年に対し中等少年院送致の決定をしたのは相当であつて、その処分が著しく不当であるとは認められない。本件抗告は理由がない。
よつて少年法第三十三条第一項、少年審判規則第五十条に従い主文のとおり決定する。
(裁判長判事 大西和夫 判事 奥戸新三 判事 石合茂四郎)